2012.03.02情熱と煩悶、そして子どものために。 【園長のひとり言】
生まれて最初の6年間で、人は劇的な変化を遂げます。だって、泣くことしかできなかった赤ちゃんが、自らの足で立ち、自分に関することが自分でできるようになって、そして、自身のことだけでなく、たとえば困っている友だちがいたら助けてくれるのだから。
でも、そうなるまでには、たくさんの愛情や助けが必要なもの。もちろん大人の、ね。過ぎ去ってしまうと忘れがちになってしまうけれど、子どもが健やかに今を生きる瞬間、必ずその背後には家族の温かな存在があります。
そして、彼女も同じ幸せをずっと願い続けてきたひとり。花見月に巣立っていく子どもたちと過ごす時間を何よりも大切にしてきたのがその証。
彼女と21人の子どもたちの生活がはじまったのは、夢だった保育士になって小さな小さな命と出会ったときから。その愛らしい表情やしぐさは、すぐに彼女を魅了したことは言うまでもありません。この仕事について本当に良かった、とね。
だけど、その日々は、決して楽しいだけの平たんな道のりではありませんでした。だって、そうでしょう。まだ生まれて間もないたくさんの赤ちゃんのお母さん代わりなんて、すぐに勤まるはずがないのです。ママがいい、お腹がすいた、眠いだけでも泣き声の大合唱。保育士として右も左も分からないなかでパニックにならないほうが不思議なくらいに。それでも、彼女は決して笑顔を絶やしませんでした。決して。一日、一日と少しずつだけど縮まっていくお互いの距離と増えていく子どもたちの笑顔が、勇気をくれたから。
いろいろなことを子どもから学び、まっすぐ、その明るい未来だけを願い保育する。彼女のスタイルの原点は、ここにあったのかもしれません。今、一緒に年長まで成長した子どもたちを見て改めてそう思います。
保育の世界では乳児よりも幼児保育のほうが遥かに難しい。それは成長するに連れ、徐々にできることが増えていくけれど、自我が芽生えはじめたその感情は複雑になり、興味関心もバラバラに、そして受けもつクラスは30人となるのだから。優しさだけでは、保育できない。そこに、情熱がないのなら。
だからこそ、毎日、毎日考えた。涙をぽろぽろ流しながら本気で叱りもした。明日のために遅くまで園に残るのは、いつものこと。そして、大好きな子どもたちと向き合いながら心のなかで聞いてみる「私のことが好きですか」と。たくさんの想いを伝えたくてね。
おそらく、その答えは彼女が望むもの。少なくとも私は、そう信じて疑わない。あの子たちにとって彼女の代わりはいないのだから。
そして、まもなく終わろうとしている保育園での彼女と子どもたちの歩み。その豊かな思い出が彼女の今を輝かせるけれど、自分のこと以上に傾けてきた情熱とそれにともなう煩悶が寂しさを極限まで募らせていきます。それでもなお、彼女の視線は子どもたちの今と、これからも待っている幸せな未来を見つめているはずです。ありがとうの気持ちを、たくさん、たくさん込めて。