2013.03.01感情の交差点 【園長のひとり言】
希望と寂しさが交わる桜月。ここ保育園にも、特別な空気が流れていきます。泣くことしかできなかった小さな命が、勇気をまとい劇的な変化を遂げて大きな社会へと旅立つのだから。
ただ、よりセンチメンタルになってしまうのは、おそらくその育ちを見守ってきた私たち大人のほう。いろいろな思いを重ねながら、その瞬間と出会うことになるはずです。
保育士になってから3年間ずっと幼児クラスを担当してきた彼女も、きっとそう。成長の過渡期にある30人の子どもたちを、毎日保育するというのは思いのほか大変なこと。
人の成長は、未分化な状態から複雑に分化し、また統合していくという軌跡をたどります。で、この再構造化が質的転換をもたらしてくれるのだけれども幼児期は、その一歩手前なのです。
例えば、感情。生まれたときから備わっている快と不快の気持ちは、興味、満足、驚き、喜びや悲しみのように細かく分かれていきます。好きとか嫌いとかいうのも、そうです。
でも、自分でこれらの感情を自覚したりコントロールするのは、ちょっと難しい。少しずつは、できるようになっていくけど、ね。だから、当然たくさんのぶつかり合いが起きます。
それでも、です。彼女は苦手な怖い顔をしなければならないときもあったけど、決して笑顔を絶やしませんでした。そして、ひと気がなくなりひっそりとした部屋で、いつも遅くまで残って考える。子どもたちの明日が、もっと輝くように自分ができることを。
その理由は、いたってシンプル。子どもたちが大好きだから。別の言い方をすれば、その健やかなる未来を心から願うということ。
そして、間もなくやってくる感情の交差点。その時、彼女は何を思うのでしょうか。泣いて、笑ってともに過ごした三年間。さようならを言わないのは、きっとまたすぐに会えるから。彼女のなかにある宝もの、と名付けられたフォルダーの一番上に保存されている言葉は、「ありがとう」なのかもしれません。